甘やかな香りで過ごす冬

A&P LE JOURNAL DECEMBRE 2020

本日ご紹介するのは、ベンゾインです。

今日もあなたの暮らしに喜びをと願いながら、最高の精油を探し続けています。そんな中で、この寒い冬にあなたにご紹介しようと思いついたのが、ベンゾイン。甘く、まるでバニラのような香りを持つ精油です。お菓子に詳しい方なら、この香りに触れればすぐに、バニラのさやを思い起こすことでしょう。

かつてタイを旅した時、北部の森の中で、私はベンゾインの収穫に立ち会ったことがあります。それは、エゴノキ科の大きな木、Stylax benzoinからの収穫作業でした。そのときの不思議な光景といったら。幹から滴るベンゾインの樹脂は、まるで涙のような形をして、しだいに白色に変わっていったのでした。

 

 

BENJOIN(ベンゾイン)

Styrax tonkinensis

科名 : エゴノキ科
採油部分 : 樹脂
収穫時期 : 1月/2月/3月/4月/12月

CAS TSCA : 9000-72-0
INCI : Styrax tonkinensis resin extract

 

ベンゾインの木(Styrax tonkinensis)の原産地はラオス。ラオス、タイ、ベトナム北部の山々に自生しています。白樺の木のような外観を持ち、呼び名は様々で、産地や品種をもとに「ラオスのベンゾイン」「シャムのベンゾイン」、あるいは学名をもとに「エゴノキ科ベンゾイン」などと呼ばれています。そして、この木から収穫されるのが、香りのよいベンゾインの樹脂です。樹脂を収穫するために、9月になると十分に成長した木の幹に切り込みを入れて刺激を与えます。同じ木にこうした切り込みをいくつか入れて収穫できるのは、2~3年間のことです。

この作業によって、樹皮には「Ⅴ」字型、あるいは長方形の切り込みが入り、樹皮と裸の幹の間に貴重な樹脂が集まっていきます。切り込みを入れてからわずか数週間、白色でもろい、涙の形をさせたベンゾインの樹脂が、幹の上を伝わり滴り落ちるのです。

収穫は主に、1月から2月の間に行われます。収穫されたベンゾインの『涙』は汚れを取り払われて、大きさと色によって選別されます。こうして、様々なグレードのレジノイドが作られています。N°5 のグレードのレジノイドは、N°5 の『涙』から作られます。ちなみに、グレードの高いベンゾインはより甘く、バニラに乳白色のように優しい香りを持っています。製品化されたものがDPG DIPROPYLÈNE GLYCOL)を溶剤に用いられている場合、香水作りなどを処方する際に作業がしやすくとても便利です。

14世紀ごろ、ベンゾイン樹脂は細心の注意を払って輸出のための準備がなされていました。ラオスの森の中からバンコクまで運ばれ、その後ヨーロッパへと運び出されるという長旅は、ベンゾインの香りが変化する可能性が危ぶまれる長く不安なものでした。現在の私たちの交通手段とは違います。そのため、ラオスの人々は、先祖代々伝わる技術を用いて準備を行いました。

それは、樹脂を豚の骨髄に満たされたショウガが入れられた大きなマットに広げ、このマットを結び束ねるというものでした。こうすることで、樹脂が脂質を吸い取り、その香りを保ったり洗練させたりすることができたのです。このプロセスは1年もかかる長いもので、完全に脂質が吸収された後、ようやく輸出の準備が整うというものでした。

 

採油方法:溶剤抽出法(樹脂からエタノールで抽出)

外観 :琥珀色の粘性の高い液体

主成分:安息香酸 、安息香酸ベンジル、バニリン

使用方法:アロマテラピー、フレグランス類、化粧品類、食品

 

Jean-Claude DEYME