冬の香り
A&P LE JOURNAL FEVRIER 2021
本日ご紹介するのは、イリスです。
いつもあなたの暮らしに喜びをと願いながら、最高の精油を探し続けています。真冬日を迎えた今日、あなたにご紹介しようと思いついたのが、イリスです。イリスの香りは彩り豊かな表情を見せて、私たちの鼻を楽しませてくれます。思いつくままにその香りを語ってみると、フローラル、パウダリック、アンバーを思わせるような温かさ、ウッディ、アーシー、ムスキー、など。
私はある時、フレンチアルプスのオート・プロヴァンス地方にある、ヴァロンソル高原に滞在していたことがありました。そして、そこで、淡いラベンダーブルーの花々に出くわしました。そこは、ソフトでパウダリックな香りを生み出す、このイリスの栽培畑だったのです。
見つけてすぐさま私が生産者に挨拶をしに出向いたのは、勘の良いあなたならお分かりのことでしょう。好奇心旺盛な私は、その時、イリスの精油が抽出されるプロセスを教えてもらう機会を得たのです。
根茎を収穫し、洗浄して乾燥させる。イリス精油の抽出は、この乾燥された根茎を粉砕して行われます。
Iris pallida L.
科名 : アヤメ科
採油部分 : 根茎
収穫時期 : 1月/2月/7月/8月
CAS TSCA : 8002-73-1
INCI : Iris pallida root oil
イリスは、フランスの王族の象徴です。また、地中海文化を象徴する花でもあります。雄大で誇らしげな植物というイメージが、少なくともフランスで一般的に持たれているのはそのためでしょうか。
Iris pallida は多年生の植物で、淡いラベンダー色の優美な花を咲かせます。しかし、精油の抽出のために用いられるのは、この花弁ではありません。イリスの香りは、ちょうど生姜のように、根茎に隠されているのです。香りを楽しむためにイリスが使用され始めたのは、おそらく16世紀、カトリーヌ・ド・メディチによるものと考えられています。
マケドニアが原産であるイリスは、19世紀になってからフランスで栽培されるようになりました。洗練、高級といった印象を与えるイリス精油は、貴重で高額な香水原材料としても知られています。また、ローズ・ド・メ、ジャスミンに並ぶ、フランス・グラース産の香水製造用香料としてもよく知られています。
ですから、フランスの香料界にとって、遺産ともいえるイリスの生産状況を維持することは必須でした。フランスにおけるイリス生産が困難に陥った際、まずフランスの香料会社たちがしたことは、エロー県のイリス生産農家との長期的なパートナーシップを確立したことでした。なにしろ、イリス精油が採油されるまでのプロセスは、他の精油に比べて非常に長いのです。
畑で3年間、イリスの成長を待った後、根茎を収穫します。根茎は、洗浄されて、2ヶ月の間、乾燥させられます。これを粉砕した後に蒸留し、そこで得られるのが、イリスバター。イリスバターは芳香分子「イロン」を豊富に含んだもので、その香りは、イリス特有のパウダリックノート、フローラルノート、ウッディノートです。イリスバターからさらに水蒸気蒸留を行ったものが、イリスのエッセンシャルオイルです。イリスバターはその形状から、フランスでは一般的に、イリスコンクリートと呼ばれています。コンクリート、エッセンシャルオイルともに、これらのイリス精油には、天然のミリスチン酸と、8~15%レベルのイロンが含まれています。
採油方法:水蒸気蒸留法
外観 :アイボリーから黄褐色のペースト状
主成分:ミリスチン酸、シス-ガンマ-イロン、シスおよびトランス-アルファ-イロン(8%)
使用方法:アロマテラピー、フレグランス類、化粧品類、食品
Jean-Claude DEYME